大径ホイールの特性を活かした、走り方、ライディングパターンに変えること
29と26の違いは、まさにホイールの大径化という物理的な変化であり、走行の変化もその影響を強く受けます。
そのため、ライダーの走り方も(ポジションではなく)、スピードを得る、コントロールする、ことに対応が必要となります。
慣性を利用した運動エネルギーの獲得のために、俊敏な加速が求められる
大径ホイールのメリットである慣性(ホイールが回り続けようとする作用)を利用した運動エネルギー(推進力)を模式的に表すと、このようなイメージになります。
26(青ライン)がホイール回転数に応じ、バイクの推進力である運動エネルギーが等比とします。
29(赤ライン)は、停止時から立ち上がっていく時に、26よりも慣性が弱く回りづらい状態にありますが、回転が上がれが上がるほどに、慣性利用による運動エネルギーは大きくなり、ある一定の回転数を超えると、高いスピードを得やすくなります。高速域でもバイクが跳ねずに路面の細かい凸凹を乗り越え路面接地を一定にしてくれる効果と相まって、
回転が回転を生むかのごとく、より回しやすく、よりそれを持続しやすくなるのです。
これが、ホイール大径化の最大のメリットとも言える特性です。
この特性をメリットして使いこなす乗り方を、ライダーがしなければ、そのメリットを得ることは出来ません。つまり、ゆっくりと走っていては、このメリット、慣性の利用は絵に描いた餅となります。
では、どのように走れば活かせるのか?
慣性利用の活かせる分岐点、しきい値、赤いゾーンまでに素早く、しっかりと加速させることが重要です。
そうすることでオレンジのゾーンの高い運動エネルギーを獲得し、速い巡航というメリットを最大に享受することが出来るのです。
青いゾーンでの低回転でモタモタしてはいけません。
26ならば、頑張れば頑張っただけのスピードになりますが、29ならばしきい値を超えるところまでより頑張って加速させてしまえれば、それの先は、楽に、より高いスピードを得ることが出来るのです。
これを実践するために、コーナの立ち上がり、セクションの通過後など、速度、ホイール回転が落ちたときに、しっかりと加速をさせていきます。つまり、まったりと一定で走るのではなく、より俊敏に、立ち上がりの加速を、回転が上がるまでに、一気に行わなければなりません。
そのためにはフィジカルとしてのペダリングパワー、10~30秒のパワーを高め、何度も繰り返しできる特性を獲得する必要があります。
加速をする際のパワーは、ケイデンスxトルク では、ケイデンスを高めて一気にパワーを高めていくことは言うまでもありません。踏み込み、でモタモタとしていては加速になりません。
トルクで維持しいくよりも、ホイールを回せるように一気にケイデンスを上げてパワーを高めていくスタイルが向いています。
また、加速のための大きなパワーを掛けるにはダンシングが向いています。このダンシングも、29では、接地面の長さによる安定しているので、非常に行いやすいです。オフロードでの26はもとより、舗装路でのロードバイクのダンシング以上に行いやすいです。ホイールが不安定に振られない、切り込まない、直進しようと働くのに加えて、トラクションが非常にかかります。そこで、ボディポジションは、タイヤトラクションを気にせず、後に残さずしっかりとダウンストロークのペダルに乗せられ、高いパワーを掛けることができます。また車体の安定とあいまって、高いパワー発揮の前傾姿勢もしやすくのもダンシングに有利です。このように相乗効果が見込める、ダンシングを積極的に活用していくようしていきます。
上りも全く同様であり、一定回転、速度まで、一気に頑張ってあげてしまうと良いでしょう。そうすると、その後の巡航局面で、同じ努力をしていても、あるいは脚を回しているだけで、楽に高く速度を維持できます。
慣性、勢いを維持できれば、トラクションがかかり、ギャップ走破性の高い、29は上りでも有利だといえます。しかし、 ゆっくりとした一定で、慣性利用に満たない遅い走りの場合は、質量的にも、重く感じてしまうかもしれません。
そして、これらをペダリング、パワー、速度にあった、ギア比の適正化も図るべきで、26よりも軽いギア比はもとより、自分自身によりあったギア比の獲得が必要でしょう。
下りの勢い、慣性が利用できる上り返しは、まさに、回転が上がった状態で上りに入っていけるので、29のメリットが体感しやすいです。ライダーが加速のためのペダリングパワーをかけていた状態が、自然と生じています。
その回転を殺さぬように、下りでの素早いブレーキのリリースと共に、ダンシングを利用しながら、なるべく回転と速度を維持するように、26よりも長い距離を粘ってあげるようにします。そうすれば、アッという間に上りきれていることでしょう。
これらペダリングセクションの走り方は、ロードレースの走り方と似ています。速度を生かして乗る、路面トラクションを気にしないでパワーを掛けやすいダンシングを多用します。
しかし、MTBにおけるコースのめまぐるしい変化は、上り返し、加速後の高速巡航に到達しても、瞬時にまたギャップ、コーナーで減速、そして、シフトダウンを要求されることが多くあります。そういった短い区間での高速対応には、シフトアップでギア比を合わせてケイデンスを一定に保つことが出来ないので、あるギア比で、ケイデンスを高めて対応する局面があります。その到達ケイデンスは、足が勝手に回るような高回転、100rpmを越えて回すこともあります。アップダウンが連続するようなコースではこういった状況は多くなり、平均ケイデンスが上がります。
26ならば路面抵抗に負けないトルクとパワーの出しやすいケイデンス、70~85rpmを常用していましたが、29では80~100rpmになるようであり、その面でもロードバイクと同様になります。
慣性を活かした走りには、加速性と高いケイデンスが向いていますので、脚を高速回転しつづけるロードバイクと同じクランク長の方が、より走りやすいのでは、と考えています。
ちなみに自分の場合は、身長175cm,股下83cm、サドル高72cm、ロードでは172.5mm、MTBでは175mmを使用しています。。29でも現在は175mmです。ロードよりも常用ケイデンスの低いMTBでは、路面抵抗に負けないトルクを出すために、2.5~5mmほどと僅かに長いクランクを用いることが多いです。しかし、加速のためと、慣性利用で、高ケイデンスになることの多い、29では同一になる可能性を秘めています。
特に小刻みなアップダウン、タイトなコース、加速、減速、の多いXCではその傾向が顕著となるでしょう。逆にマイペース一定で、大きなアップダウン的なコースの王滝のような場合は、その人それぞれのケイデンス域に応じて、従来通りロードよりも長くてもよいと思われます。
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ホイール慣性が仇となる コーナリング ブレーキング
大径化による回転慣性の増大は、直進時には、重厚速度の向上、そしてバイクの安定という効果をもたらします。
しかし、そのメリットは、コーナーでは、デメリットとなります。コーナリングとは、ライダーの重心を内側に移しバイクを曲がる方向に傾けること、直進で安定しているホイールの”安定を崩し”内外に倒さなければ曲がらないのですが、それに必要な力が直進安定の大きな29の場合は、26のそれよりも大きく必要になります。大径化をすると、バイクが曲がりづらくなるのです。
そのため、コーナー進入では、よりしっかりとバイクを傾ける必要がでてきます。まして29の特性として慣性で高速走行がしやすいのだから、速い速度に対応した素早く大きくコーナリング動作に、瞬間的にクイッと反応してもらわなければ、コーナリングを安心して速く通過することが出来ません。
より強く減速して、曲がらないホイールの速度に合わせるか、あるいは、外に膨らみオーバーランしてしまう、といって可能性が出てきます。
そのコーナリングでのデメリットを解消するには、フレーム&フォークの設計でその特性を打ち消す必要があります。
フォークの先端でハンドリングを良くするという手法は歓迎できます。これにより、ハンドリングが機敏な感じがすることが出来ます。しかし、絶対的な曲がりやすさ、傾けやすさは、先端の数mmよりも、全体の長さ、ホイールベースでの影響が大きく、とくに自分を中心とした重心、それを内側に傾けたときにMTB全体がどれだけ着いてくるか、というフロントセンターが支配的に影響します。
フロントセンター(BBから前輪軸までの距離)=ホイールベース-リアセンター(チェーンステー)と見ることが出来ます。
大柄なライダーであれば、長いフロントセンターでも、自分にフロントホイールは近くなるので、曲げやすいかもしれません。しかし小柄なライダーでは、相対的に遠くなりますので、曲げやすいフロントフォークでもそれを遠くにおいて傾けなければならないので、やはり、曲がりづらくなります。
フロントセンターが短かく作られた29は小柄な人でも曲がりにくさを、感覚だけではなく、低速~高速域で実際に、物理的に曲がりやすくしてくれます。
ペダルに置いたシューズの先端が、ハンドルを切ったときにホイールと当たらないように最低限のクリアランスは確保してこと、トップチューブは適切なライディングフォームのために長さを確保してあること、これとフロントセンターの両立には、ヘッド角が立っていることも必要なポイントとなります。
そして、何と言っても、ホイールの大きさ、前後の長さが、前後で倍に長くなるわけですから、それをコンパクトにまとめたほうが、スイッチバックや、狭い木と木の間を抜けながら曲がるシングルトラックなど細かい取り回しは絶対的に有利なのは言うまでもないでしょう。
さらに大径化の慣性の強さは、傾けて侵入したコーナー途中でも、ホイール自身が立ち上がり、直進しようとするように働きます。コーナリング中に、バイクが起き上がる挙動を示し、傾きを維持するために、その力を押し返さなければなりません。さもなければ、バイクのコーナリング半径が大きくなり、コーナー途中でアウトに膨らみ始めてしまい減速対応し出口で失速、となりかねません。
それに対応してホイール=バイクが立ち上がるとき、ハンドルでその傾きを保持、力を押し返すような動作が生まれます。
図のように、バイクを立ち上がらせる力は、ステムを支点として、ハンドルを起こすように働きますので、テコの原理によりハンドルは幅が広い方が有利になり、立ち上がる力を容易に押し返ししやすくなります。
この釣り合いさえ上手く取れれば、タイヤの接地面が長いというメリットは、コーナリングでも活かされるのでグリップの増大を得て、安定した速いコーナリングも可能となります。
コーナリングの前に必ずしなければならないスピードコントロール=ブレーキング、大径化されたホイールには、ブレーキもまた、大径化、強い制動力が必要になります。
高いスピードでの巡航がされるということは、コーナリングへの進入に際してより大幅な減速をしなければならなくなるということです。またその際にも前へ前へと慣性が働くので、ブレーキにはよりパワーが求められるのです。また、上記コーナリングのコントロールが出来る速度まで調整しやすいこともブレーキにとって大切な要素です。
タイヤのグリップは高いので、制動力が伝わりやすい、のは29のメリットでもあるので、よりストッピングパワーの高く、コントローラブルなブレーキを装備することが望ましくなるでしょう。
下り全般で言えば、慣性と細かなギャップを乗り越え路面を常に追従してくれることで、スピードが容易に上がります。これは29の真骨頂とも言えるメリットです。
しかし、サスペンションは、このメリットを活かし、また重量低減やライディングフォームとの関係で、ショートストロークでバランスさせています。逆に言えば、ロングストロークのサスペンションが採用しづらいとうデメリットが29にはあリます。
そのため、ロングストロークサスペンションでないと、大きなジャンプ、ドロップオフなどではボトムアウトの可能性がある、下り系には26のほうが現状では、有利でしょう。
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高速走行に対応する素早い操作性
ここまでのメリット&デメリットへのライダーの対応として、加速の重要性、コーナリング性能の維持が重要となる。つまり、26のように乗れる29バイクが、より良い走りをライダーに提供してくれます。
これを実現するには、大径化されたホイールをコンパクトにフレームに設置して、ライダーのライディングフォーム、ボディポジションには影響を与えないこと、これを実現するフレーム設計、ディメンションであることが必須です。
加速のためには、軽量性、とくにホイールの軽量化が重要ですが、加えて、ペダリングパワーの伝達と、その出足、反応のために、短いチェーンステーが望ましいです。
そして、コーナリングでも述べたように、短いフロントセンターも大事です。
短いチェーンステー+短いフロントセンター=短いホイールベース、 これが29バイクを選ぶときの極めて重要なポイントとなります。
それらはカタログで見ることの出来るフレームディメンション(ジオメトリー)と、試乗した時の印象で判断することが出来ます。
クイックにはなりすぎない自然な舵角で、 29の立ちやすい特性と相殺していること、軽く気持ち良いハンドリング、シャープな加速を体感できるでしょう。
もし、実現していない場合、重い、怠いハンドリングで29のもつスローな特性を助長し、安定した直進安定性は感じられるものの、加速性でもたつくことがネガティブに感じられてしまうはずです。
大きなホイールが産み出す、安定性のある挙動を、慣性が後押しする高いスピードを、扱いやすくコントロールしてライダーが乗りこなすには、その特性に負けないほどの素早く切れの良い操作性が必要なのです。また、高いスピードでのバイクの挙動を安定させるため、高いコーナリングスピードに応じて大きく傾くためには、やはりハンドルが広いことも有利になります。
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大径化メリットを活かしデメリットを抑え、ライダーの狙い通りに乗りこなしやすい29
ホイール大径化の持つメリットを理解して、それを活かすためのフレームディメンションにすることが必要ですが、同時にライダーが26バイクと変わらずに、基本通り中立で適切なフォームで乗車できることもまた重要です。
ホイールが大きくなる以上、バイク全体、とりわけフレームが大きくなることは仕方がない、ということで設計されていていると、大柄なライダーならば乗りこなせる、長いホイールベース、高いハンドル位置となり、小柄なライダーには乗りづらいものがあります。
Bbハイトが低く、それでも相対的にハンドル位置を低く出来るように、短いヘッドチューブ、そして適切なトップチューブ長、更に小柄な方には足つき性も大事なポイントとなります。
サスペンションストロークは、ホイール+タイヤで40mmくらい高い位置にフォークのクラウンのを上げ、ひいてはハンドル位置を高くしてしまうので、100mmフォークから10~20mm短いストロークにし、さらにヘッドチューブ長も30mm程度、26よりも短いことが望ましいといえます。
ホイールは直径の大きなタイヤ、リム、そしてスポークも長くなるのでその分の質量が増え、同じグレードならば重くなりますし、フレームも、チェーンステーと、フォークの肩下は長くする必要があるので、それだけ重くなります。
ですから、いかにこれを軽く仕上げられるかということもデメリット相殺に考えなければなりません。
大径ホイールということが走りに多大な影響を及ぼしますでの、その物理的な影響はとても大きく、軽量で高性能ホイールは、そのまま高性能な走りに直結します。
加速性にとって軽さは重要であり、重いホイールだと加速、出足が鈍く重い走りになります。
ホイールの適度な硬さもコーナリングに重要です。スポークが長いのでたわみ易いので硬さが重要となりますが、計算されたたわみも活かして路面追従性を上げるというのもホイールの善し悪しを決める要素になり得ます。
あわせてタイヤ性能も重要です。まずタイヤそれぞれの性能もさることながら、26インチと29インチという違いからタイヤに求められる性能に大きな違いがあります。
タイヤの接地面が立てに長くなることで得られるトラクションアップによって、ノブの低いタイヤでも、接地面積により摩擦、グリップを稼ぐことができます。路面状況に応じた26インチとの比較では、29インチはひとつコンディションがよいレンジのタイヤを使うことが出来ます。
ノブの低いタイヤは、29インチのもつ慣性が大きくなる効果と相乗効果で、高速度域での巡航を可能とします。
そして、ホイールに対して相対的に低くなるライダーの重心位置はタイヤの接地増大による安定性と相まって、ダンシングがロードバイクと同じような感覚でスムーズに行えます。これによりノブの低いタイヤの転がり性能が更に活きて、高い加速性を持つことも出来ます。
これらの特性を理解して、、とりわけ接地面積の増大という全てを好転させる大きなメリットを享受するためには、タイヤの低圧使用が前提となります。
エアボリュームと耐パンク性が29インチタイヤに求められる基本性能となり、次に低いノブでグリップを稼げるパターンとなります。そして、タイヤ(ホイールもですが)が大きくなることで重さが増すというデメリットもありますので、なるべく軽量なタイヤを選びたくもなります。
ギア比は26よりも軽いギアの組み合わせになっていることが重要です。11-36Tが標準となりつつある今、フロントギアの歯数でギア比が決まりますが、フロントダブルの場合、26ならば40x28か39x26のところ、29ならば”38x24”というように小さいチェーンリングを組み合わせる必要があります。これにより、絶対的なローギアの確保や、アウターで走れるコース箇所の増加、そして加速に適したギアを選びやすくなり、ホイールの大径化による重すぎるギア、になることを防ぐことが出来ます。
このように、大径化されたホイールのメリットをいかしてデメリットを打ち消すためには、機材の各部に渡る設計とセッティング煮詰め直しと、ライダーの走りのマネジメントを変えてる必要がありますが、
その見返りに高いスピードと安定性を得ることが出来ます。レースやイベント参加を考えるならば、これ以上の優位性はありません。ぜひ、ここまでの要素、加速と俊敏な操作性重視のコンパクトな29バイクを自信を持って選んで欲しいと思います。
また、ツーリング的にゆっくりとマイペースで走ったり、一
般的なエントリーレベルのライダーには、高いスピードということは求めないかもしれませんが、29バイクのもつ、ギャップ走破、登
りのトラクション、穏やかなハンドリング、これらによりコントロールを失いづらく、バイクに安定して乗り続けやすい、という観点からオススメできます。ホイールベースが大きく安定志向のバイクでしたら、とてもマッチするはずです。
いずれもカタログでチェックしてみて、そして実際の試乗の機会に体感をしてみてください。