2013年12月2日月曜日

骨盤角度は?起こすの?倒すの?【フォーム&ペダリング編】

【姿勢編】では、立位とエアフォームでの骨盤角度と姿勢の関係を解説しました。

適切な姿勢とは、体の負担=筋力負担だったり、余計な力み、局所的な緊張の少ない姿勢です。
姿勢を構成する、頭部、胸部、腹部、腰部(骨盤)、そしてそれらの柱である脊柱との位置関係を適切に保てれば、筋力発揮は少なければ少ないほど、楽に長く維持できます。

各部の負担とは、その部位の重み、頭であれば5~8kg程度ありますが、それを隣接する部位で支えています。

頭、胸、腹、腰でざっと体重の60%、両腕で10%、両脚で30%といった重さの分布になっていますので、自分の体重に換算して、それぞれの部位の重さを数値的に実感してみるのも面白いでしょう。

立位でしたら、その重さを鉛直線、地球の重力方向に引っ張られていまして、頭、胸、腰、腹、腰、脚と垂直に縦に乗っています。

頭の重さは胸が受け止め、頭+胸の重さは腹が、頭+胸+腹の重さは腰が、頭+胸+腹+腰の重さは脚が受け止めています。

筋力だけでなく、骨格もその重さを受けていていまして、脊柱、骨盤、脚の骨にも荷重がかかっています。
脊柱、背骨のS字カーブは垂直方向に掛るその重さを支えるために形成されているのです。

立位の時は、それはだるま落としのように縦に綺麗に成立していれば、バランスがとれて安定しますが、それぞれの位置が前後左右にズレると、筋力で引っ張り支えるという緊張状態、負担の高いアンバランスで不適切な姿勢となってしまいます。



では、話は乗車姿勢=ライディングフォームに移りましょう。

画像では重さを矢印で擬似的にイメージとして表現しています。

立位では前述、縦に掛かっています。
ライディングフォームでは前傾姿勢となることで、それぞれの部位は縦のラインから前方にずれていくことになり、それぞれの重さが下方向に掛かります。
この部位のズレ=重さのズレにより、先ほどの立位での骨格が支える割合が大幅に減少して、代わりに筋力で支える負担が大幅に増えるのです。前傾姿勢を維持する辛さは、これにあります。
ズレを支えるのは隣接する部位の筋力になります。

頭を支えるのは首と肩、肩を支えるのは胸部、胸部を支えるのはハンドルに伸びる腕と腹部、腹部を支えるのは腰の筋力となります。

単純に言ってしまえば、上下左右前後のお隣さん同士が支え合っていると思えば間違いではありません。

ばずは”自分の重さは自分自身で支える”必要があるのです。
これはサドルに座らない、エアフォームで容易に確認できると思います。

いえ、エアフォームならば自分で支えるのに、バイクの乗った瞬間から、”支えを放棄してしまう間違った理解”をしている場合があまりにも多いのです。
サドル、あるいはハンドルに頼ることで、誤ったフォーム、誤った骨盤角度などが発生してしまうのです。




こちらはサドルに頼ることで発生する悪い例です。

各部の重さを自分で支えないでサドルに預けるように、しっかりと”座る”べく、姿勢を丸めて重さをサドルの上にもってこようといしています。


垂直姿勢では重さをサドルに預け切れますが、それでは、ハンドルに手は当然届きません。
そこで、腹部の張りをキャンセルさせ支えを失わせることで、腹部から各部を前に曲げていきます。隣同士の全ての支えをキャンセルさせて曲げていくことで、なんとかハンドルに届かせていきます。

これを間違った理解で自発的に行ってしまうのが、”骨盤を立てる”ことを意識して骨盤が後傾させ過ぎてしまった場合なのです。

支えをキャンセルした部位は、瞬間的には楽に感じますが、その負担はどこかが立て替えて、過度の負担を支払っています。

それは代わりに償う動きということで、代償動作といいます。

バイク(あるいは地面)には、力をかけると同じ力で押し返されるという、作用反作用が働きます。部位の重さをかけると同じだけの力でバイクから押し返されているのです。

つまり、体の重さをサドルに掛けることで同じだけの力でサドルから体は抑え返されています。

上から支えを失った重さがかかり、そして下からも同じ力で押されますので、上下に力のサンドイッチのように挟まれてしまった部位が潰されます。
それは骨格というフレームのない腹部であり、呼吸が浅くなますし、その後部の腰痛というトラブルを引き起こします。

さらに、腹部の支えを失うと、骨盤の安定も失います。

骨盤が安定しないと、股関節の可動域は狭まり、骨盤ごと動くという代償動作が起こります。
この代償動作では、さらに腰をリンクとして働いてしまいますので、ペダリングすればその力は腰を動かす力となってしまい、またペダルからの反作用により大きな力を掛ければ掛けるほど、腰に掛る力=負担が増してしまうますから、ロングライドやレースでは腰痛はより深刻になります。

いえ、ちゃんと乗っているのに腰痛になると言う場合は、ロングライドでは長時間での安定が、レースでは脚の筋力に対して比例した骨盤の安定が足りていないのです。


サドルに重さを掛ければ掛けるほど、その接触面であるお尻にも力=圧力が増えますので、お尻が痛くなりやすくなります。
お尻が痛いのはサドルの問題の場合もありますが、自分自身の乗り方の問題である場合も少なくないのです。どんなサドルを使っても痛い場合は、後者を疑ってみましょう。

また、ハンドルへの荷重は減りますが、同時に前輪荷重が減って、前輪が不安定になり、ふらついきやすくなります。それを抑えるためにハンドルを腕の力でガッチリ握りしめて固定するという状態にもなります。

自分を支えないこと、自らが自らに問題を起こしているのです。




次に意識的に過度に”骨盤を倒す”とどうなるかを再現してみました。

骨盤を倒すと背中が反ってしまいます。前面腹部の働きをキャンセルさせて伸ばしているので、これも背筋群の過度の負担を意味します。
また、各部位の重さは前に移動しますので、ハンドル荷重が増えて、手の圧力が高まり、腕、肩に負担がかかるようにもなります。

自分の場合は背筋が強いので、支えられてしまうので不自然に見えないかもしれませんが、肩と腕腕の緊張と、骨盤の不安定をやはり誘発します。
もし同様に背筋が強ければアンバランスなフォームでも維持できてしまうので、骨盤後傾よりも負担は少ないかもしれません。


しかし、骨盤から下、股関節と大腿の動きの位置が変り、ペダリングへの影響がとても大きくなってしまうのです。

骨盤を倒し過ぎると、股関節の可動範囲、大腿の動く範囲が”下”かつ”後”にズレていってしまうのです。

上死点通過、クランクの中心軸、ペダル力点に対して、低く、後方にずれてしまうということになり、上死点の通過がスムーズに出来ない、下死点まで踏む込事になので、下向きの無駄な力が掛かりやすくなり、ケイデンスを上げられない、リズムが遅れてしまう状態になります。

また股関節の屈曲が深くなり、臀筋とハムストリングの動員が増しますが、その分骨盤も余計に引っ張られることになりますので、その強さと等しく骨盤を安定させる必要も出てきます。

しかし、腹筋をキャンセルした骨盤前傾過度の場合は、安定性を確保することができません。

骨盤を背筋で引っ張り、臀筋とハムで引っ張られて、上から下から緊張を強いられてやはり腰痛を引き起こしやすくなります。

また、座骨がサドルから浮きやすくもなり、サドル前部の圧迫が強くなり痛みを覚えて、サドルを過度な前下りにしたりの対処方をする場合も骨盤を過度に倒しすぎているからです。

そして背中のアーチ形状、曲がりのアールは、立位とは違い上からの各部位の重さを脊椎、とくに腰部のS字カーブで支える必要がなくなります。
スクワットのように多大な重さを肩から担いで、上から下に重さに潰されないようにSを保つ運動ではないのですから、S字キープを意識する必要は全くありません。
骨盤を安定させつつ、個々人の腰部、背部の可動域に応じた自然なアールであれば、ひとそれぞれ見た目は変わって良いのです。

各部位の重さが下に向かいますので、幹のしっかりした木を傾けたら自重でしなる程度のアールをイメージするとよいでしょう。




それでは適切な骨盤角度はどうすればいいのか?

話は最初に戻って、立位の姿勢を適切に保つことから始めて、次にエアフォームをとってバイクに依存しないで自分の前傾姿勢、フォームを確かめましょう。

そして体の各部位の位置関係を体で覚えます。

それを崩さない範囲であれば、骨盤の角度はある程度範囲を持って調整して構いませんし、むしろ一定ではなく、回転を上げる、トルクを掛ける、荷重を前に移す、後ろに移すなどの状況に応じて骨盤角度も変わって然るべきなのです。

そして、バイクで力を掛ける場所はサドルでもハンドルでもなく、ペダル、進むべき力をペダルにかけます。

ペダリングの詳しい話は著書である バイシクルトレーニングブックバイシクルライディングブック DVD BOOK、または iPhone・iPadアプリ「竹谷賢二のバイシクルトレーニング」をご参照してもらうとしまして、上死点から素早く力を掛けていきますので、上死点を僅かに過ぎた位置が目見当になります。
真下ではBBにかかりますので、実際はそのペダル位置から僅か前方3時の位置までは押し出すことになりますが、基準位置として1時からダウンチューブに掛かる位置とすれば大体OKです。

そこに荷重を感じ、リアブレーキをかけて立ち上がり、荷重を逃さぬように、臀筋とハムストリングの伸びを確認しながら、そっとサドルに腰掛けます。
レストランの椅子のように体重を預けて座るのではなく、自分で姿勢を保ったまま腰を静かに落ろしていき、イメージとしてはバーのカウンターにあるスツールにかっこ良く腰掛けるようにして、サドルに接します。
そうすればサドル、ハンドルに荷重が過度に掛ることはなく、ペダルに推進力となる荷重は掛かったままです。
これを左右両脚で確認してみましょう。

サドルは座るものではなく腰を安定させてくれる補助、ハンドルは上半身を安定させてくれる補助の役割を果たしてくれますが、自分で自分を支えることは忘れないで下さい。